「このトレーニングって何を鍛えているのか、よくわからないんですよね」
ある競技の選手が、ウエイトトレーニング中に私に言った。
部が取り組んでいるトレーニングを、先輩から引き継いで習ったもの、やっているものだという。
聞くと、ほぼここでトレーニングをしている選手たちは、
専門的なトレーニング指導者から”習った”経験はない、という。
ざっと見回す。が、皆 ”綺麗な(概ね目的に則した)フォーム” で実施している。
私は動きや姿勢の見た目の”綺麗さ”は大事だと思う。
動きに無駄がなく、効率的なのと、”綺麗さ”は一貫しているからだ。
ある、本にこう書かれていた。
筋力さえつければ、パフォーマンスが高まるという単純思考がまことしやかに広まりつつあることが、私は一抹の不安を抱えている
『脱・筋トレ思考』(ミシマ社,2019)の著者、平尾剛氏の言葉だ。
私もどちらかというと、『筋トレ推奨派』。以前はウエイトトレーニングは一番手っ取り早いフィジカルトレーニングだと信じていたし、
筋力をつけることが怪我の予防とパフォーマンスの向上に繋がると思っている。
実際に実践し、結果を残せた経験があるからだ。
しかし、最近、自分の従来の考え方に疑問を持つようになっていた。
言葉で言えば「筋トレは大事」。しかしながら
「筋トレもまた、技術」
と考えれば、「筋力さえつければいい」という単純な思考にはならない。
そもそも、なぜ、筋トレをする必要があるのか?
パフォーマンスを上げるため。
パワーやスピードを高めるためには『力×速さ」は科学的に立証されているものである。
でも、実際筋力がなくてもパワーやスピードがある、パフォーマンスの高い選手は多く存在する。
では、なぜ、筋トレをする必要があるのか?
私は ”うまく動く” ためだと思うようになった。
うまく動くために、必要な筋肉をつける。
うまく動けると、ケガが減る。予防になる。
体を動かす感覚的な”何か”が掴めなくて、練習を繰り返すのだが、
その過程で、カラダのキャパシティを超えてしまうと身体はもたない。
ケガをする。
当然、パフォーマンスは上がらない。
その「うまく動くため」という目的を見失うと
筋トレは、”単なる筋肉をつけるトレーニング” にしかならない気がする。
後日、またあの選手とトレーニングルームで会った。
彼女のフォーム、綺麗なんだけどやはり”大事なところ”が抜けているので
少しアドバイスをしてみた。
「なるほど。だから・・・・・なんだ!」
彼女の中で、今までパフォーマンスにおいてしっくりこなかった疑問と
このトレーニングをやる意味が直結したようだった。
同じドリルでも、使い方が変わると感覚が変わる。
新しい感覚。新しい思考。
どうせやるなら、トレーニングルームでいい時間を過ごしてほしい。